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02 リトマスから生まれる藍の青

02 リトマスから生まれる藍の青

RHC Journal

Posted on Jun 22.2023

RHC10周年を記念して、RHCの3つのブランドからおすすめのアイテムを藍染した特別なコレクションが登場します。藍染でしか表現できない美しい青を手がけてくださった職人集団リトマス(LITMUS Indigo Studio, Japan)の工房にお邪魔しました。




神奈川県藤沢市にあるリトマスの工房。地植えのソテツがエネルギーに溢れていた。


鵠沼海岸から内陸に少し入ったところにある平屋造りの古民家が並ぶ静かな一角。そこにリトマスの工房はありました。植物に囲まれた工房に入ると、藍の香りが漂ってきます。工房内には藍染の液を湛えた6つの甕(かめ)。藍色なのかと思い覗いてみると液体は茶褐色でした。
「草木の色ですよね。液を混ぜて空気に触れることで藍色に変わっていくんです」
そう教えてくれた職人の吉川和夫さんが藍液を混ぜると表面がパッと藍色に変化し、泡が残ります。
「この泡は“藍の花”と呼ばれ、藍の花で液の状態を見ることができます。薬品を使わない自然の発酵ゆえに液はすごく繊細で、仕込んで染められる状態になるまでに2週間くらいかかります。僕らの時間の中心は藍なんです」
藍は発酵文化。一般的な草木染は煮出して色を定着させるのに対し、藍は発酵により溶け出した青が空気に触れることで色が定着します。ジャパンブルーとも言われるこの青は日本酒造りにも通づる日本古来の発酵文化に育まれた色です。




この泡が“藍の花”。藍液を作ることを「藍建て」という。リトマスでは灰汁を用いて自然発酵に任せる伝統的な染色技法である「灰汁発酵建て(あくはっこうだて)」で染められる。


RHCが今回のコレクションで藍染をお願いした3アイテムは青のグラデーションの表現を目指しました。お客様にはご自身の感覚で選んでいただき、一期一会の出合いを大切に思っていただきたいのです。
「藍染の青の呼称は淡いものから“瓶のぞき”、“水色”、“空色”という具合に10種類以上あるのですが、厳密に言うと全く同じ色には染まらないんです。そして、商品を手にした時が美しさのピークではなくて、使い混んでいくことでその人の青色になっていく、そこが自然発酵の藍染ならではのよさだと思います」
吉川さんがノースリーブTシャツの染め作業を見せてくれました。まずは中が見えない甕(かめ)の中で液を染み込ませるために、染めるものをよく観察することから始まります。縫い目やパターン、空気が溜まりやすい生地なのかを目と手で確かめるのです。液の中に入れると、しばらく両手で揉むような作業。指先の感覚を頼りに、ていねいに液を染み込ませているそうです。そして液から引き上げ、外気に晒すと、みるみると美しい青に変化します。
「染めるというよりは、“青が生まれてくる”という感覚ですね。発酵物である藍液に色を分けてもらう、作業をしているというよりはお手伝いをしているという感じでしょうか。『藍甕には神様が宿る』と昔の人は言ったそうですが、1日が終わって混ぜる時には、『今日もありがとう』という気持ちになります」




(写真左上から時計回りに)藍の染料となる「すくも(藍の葉を4カ月ほどかけて発酵させて作る)」。/藍液に寄り添い、向き合う吉川さん。/植物の生命力が強いのはスタッフの皆さんの気の良さとも繋がりがあるのだろう。/伝説的なサーフムービー『Litmus』から屋号をもらった。監督でサーファーのアンドリュー・キッドマンとは長く交流をしているそうだ。/藍液から出した直後はまだ草木の色。空気に触れることで青が生まれる。


吉川さんの話を聞いていてあらためて感じたのは、藍染は染め物ではあるのだけど発酵物という、生きたものとの対話であるということ。植物を発酵させ、藍液を仕込み、色を分けてもらう。藍液に合わせた時間軸で吉川さんは生きています。
「縫製の担当がスケーターなんですけど、縫製はスケートに似ていて染めはサーフィンに似ていていると彼が言うんです。スケートと縫製は何回でもやり直せるけれど、染めは条件が合わないとできませんからね。藍に合わせて生きるのと波に合わせること、その感覚はとても近いと思います。一つとして同じ波がないように、藍染も同じ色はないんです。そういう向き合い方でしか、この色は引き出せないのかもしれませんね」
自然界の大きなうねりのような時間に寄り添うようにして生まれた青の美しさは特別です。手に取ってくださる方にとっての出合いの青、そして着る度に育っていく青、そのどちらも特別な青になることを願っています。




Profile
LITMUS Indigo Studio, Japan
日本に古くから伝わる、天然素材のみを使用した藍染の染色技法「灰汁発酵建て」の技法にこだわり、日本の藍色を表現し続ける藍染工房「リトマス」を2000年に松井裕二と吉川和夫で共に立ち上げる。
- Website / Instagram -




リトマスが藍染を手がけたRHC10周年コレクションモデル。左からMerlette のドレス、Frank&EileenのノースリーブTシャツ、MOTHERのデニム。6月24日発売。RHCロンハーマンみなとみらい店限定商品。



text:Takuro Watanabe / photo:Mai Kise

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