波や島など、"海"をモチーフにしたカラフルでポップな作品の数々。よく見ると、その素材はロープや魚網など、海に捨てられたゴミ……。Ethan Estes(イーサン・エステス)が手がける作品は、海の環境問題を見る者の心へ深く訴えかけてくる。美しさと相反する素材を交差させたコンセプチャルな手法は、地元のカリフォルニアを始め、ハワイや日本でも大きな注目を集めている。アーティストとしての顔の他に、サーファー、シェイパー、スタンフォード大学で修士号を取得した海洋生物学者とマルチな顔を持つイーサンに話を聞いた。

廃棄された魚網やロープ、プラスチックゴミが素材とは思えないEthan Estes(イーサン・エステス)の作品の数々。海洋生物学者として日本にも滞在して日本の文化やアートから大きな影響を受けたと言う。「日本の滞在は僕の人生を完全に変えた。海岸や寺院を歩き回り、海岸に打ち上げられていたロープと、寺院に見られる日本の伝統的な図像を頭の中で重ね合わせるようになった」
——イーサンはさまざまな肩書きがあるけど、今はどんな活動をしているのかな。
僕は、海への愛と、ものをつくることへの愛を、海洋ゴミを使ったアート制作という、とてもニッチな仕事へと結びつける方法を見つけたサーファーなんだ。海洋生物学者であったことで、世界中で巨大なサメやマグロとかかわるような、とても刺激的な経験をする機会に恵まれた。その経験から、プラスチック汚染のような問題について、もっと多くの人に知ってもらいたいという責任感を持つようになった。アートをつくることは、僕にとって抑えられない衝動のようなもの。幸運なことに、その衝動を海が直面している課題について語るために使うことができている。
——海やサーフィンは、いつごろから大切な存在になったの。
15歳のときにサンタクルーズへ移り住んだ。父はそこで僕と3人の兄や姉を育て、幼いころからサーフィンを愛することを教えてくれた。一番の思い出は、学校へ行く前、古いフォルクスワーゲンのバンに乗って父と夜明け前の海へサーフィンに行ったこと。サンタクルーズ周辺の、サメの多い海がなければ、僕は海洋生物学に興味を持つことはなかったと思う。だから、僕にとってすべての源は本当にサーフィンなんだ。
——サーフボードをつくっていることが、作品づくりに大きく関係しているように感じるけど。
14歳のころ、僕はサーフボードのシェイピングとグラッシング(サーフボードづくりの最終工程)に夢中になり、高校時代には30本ほどのボードをつくった。大学に進学して、キャンパス内のあらゆるファクトリーを訪ねて、そこでボードをつくらせてもらえないかと頼んだ。でも、誰もその有害で面倒な作業にかかわりたがらなかった。あるファクトリーの責任者に、「ねえ、アートの授業でも取ったらどう」と言われて実行した。そして、電球がパッとつくような瞬間が訪れた。サーフボードづくりで培った技術を、彫刻を通して視覚的な物語を伝えるために応用できるのだと気づいたんだ。シェイピングとアート制作には、とても多くの共通点がある。なかでも一番大切なのは、何かを頭の中で思い描き、それを形にするために目と手を鍛える力。フォーム(サーフボードの素材)からボードを想像することと、古い漁業用ロープの山を見つめながら、それを海の風景へと思い描くことと、それほど違いはないよ。

RHC ロンハーマン七里ヶ浜で開催されたキッズ向けのワークショップで、子どもたちを前に話をするイーサン
——海洋科学とアートという異なる分野を横断しているけど、その二つはどのようにつながっているのかな。
僕は幸運にも、機械工学、アート、海洋科学の授業を横断的に受けることができる学際的なプログラムで学ぶことができた。それが、今の活動をするための土台をつくってくれた。アートと科学は、自然界を観察するという点でつながっている。どちらも、混沌の中にパターンを見つけ、無限に複雑なものを、触れることのできる形へと凝縮しようとする行為だからね。科学は数式や専門家による検証を使い、アートは素材と感情が重要になる。環境科学は、退屈で悲観的なものとして受け取られることがよくあるよね。だから僕にとってアートの役割は、海の問題を伝えるメッセージに火花を与え、共感と行動を生み出すきっかけをつくることなんだ。
——海洋環境の未来について、希望を感じることは。
佐渡島や高知沖でクロマグロの研究をしていた日本での仕事は、海洋保全の歴史における最も大きな成功例の一つ。つまり太平洋クロマグロの個体数回復を最前列で見る経験になった。2015年、日本政府はクロマグロ漁に新しいサイズ規制を導入した。水揚げできるのは30キロ以上だけになった。その後、僕たち研究者は年を追うごとに、クロマグロの数が劇的に増えていくのを目の当たりにした。現在、その個体数の回復はモデルの予測を上回っている。その変化を実際に見たことは、僕に大きな影響を与えた。

ワークショップでは千葉や鎌倉のビーチで拾ったペットボトルのキャップやロープなどを使って、トートバッグにアートワークを施した。その後、参加した子どもたちとともに七里ヶ浜でビーチクリーンも行った
——海で回収されたゴミを作品の素材にしているけど、最初に使おうと思ったきっかけは。
22歳のとき、サンフランシスコのゴミ処理場でアーティスト・イン・レジデンスを行い、そこでゴミの中からロープを見つけたんだ。そのロープを使って大きなクジラの尾の彫刻をつくったら、幸運にもその作品がサンフランシスコ国際空港に展示され、何百万人もの旅行者に見てもらえた。それがアートの世界での最初の幸運なブレイクだった。そして、古いロープを使うほかの方法について考えるきっかけになった。その数年後、カナリア諸島で別のアーティスト・イン・レジデンスに参加し、ビーチで漁網やロープを集めて実験を始めた。現在、僕が使うロープの多くは、ハワイ諸島のさまざまなビーチクリーン団体とのパートナーシップを通じて手に入れている。また、カリフォルニアの漁師たちがロープを廃棄しようとするタイミングで、それを受け取ることもあるよ。
——作品を通じて、見る人に感じてほしいことは。
環境問題はたいてい、暗く悲観的な会話のネタになってしまう。そして多くの人は、そのようなネガティブさから耳を閉ざそうとしてしまう。僕の願いは、自分の作品が見る人の警戒心を解き、無理に押しつけることなく、サステナビリティの問題について考えるきっかけになること。作品を美しい、あるいは興味深いと感じてもらえたらうれしいし、細部へのこだわりにも気づいてほしいと思っている。僕は自分の作品を、自分たちの行動が周囲の人々や共有している環境にどのような波紋を広げるのかを考えるための、小さく前向きなリマインダーのようなものだと考えているんだ。

ワークショップに参加した子どもたちとともに記念撮影を。次世代へ美しい海、そして、海洋資源を引き継がせることがイーサンのライフワークだ
——今回、RHC ロンハーマン七里ヶ浜で開催されたワークショップの感想は。
実はストアの中で版画のワークショップを行うことには、少し緊張していたんだ。美しい服に絵の具が飛び散ってしまうのではないかと思っていたから(笑)。でも、子どもたちは本当に素晴らしかったし、RHC ロンハーマンのチーム全員がとても協力的だったので、イベントはとてもスムーズに進んだ。僕にとっても、あまり心配しすぎず、アートを楽しむことが大切だと思い出させてくれるよい機会になった。子どもたちも楽しんでくれたと思うし、それが僕にとってはとてもうれしいこと。環境を大切にすることは、本来、義務のように感じるべきものではないからね。それは地球からの贈り物を祝うようなものであるべき。サステナブルなものは、そうでないものよりも、もっと楽しく、もっとファッショナブルで、もっと高品質であるべきだと思う。
——最後に、海を愛するRHC ロンハーマンのお客様に向けて、メッセージを。
アーティストとして働き始めたころ、僕はサーフィンや釣りをする自由な時間ができるだろうと思っていた。でも、人生にはいろいろなプレッシャーがあって、水の中で過ごす時間を優先することがどれほど難しいかに気づいた。僕の考えでは、本当の意味で海を守ることは、実際に海を使うことから生まれる。だから、もっとサーフィンをして、もっとダイビングをして、もっと釣りをして、もっとボディサーフィンをして、もっと海を眺めてほしいと思う。僕たちが海に接するたびに、海とのつながりや感謝の気持ちは強くなる。そして、自分たちの地元のビーチで何かがおかしい、あるいは改善が必要だと気づいたときには、自分たちこそが最初にかかわり、それを直す存在であるべきだと思う。

アート制作も海洋研究に真摯に、そして前向きに取り組むイーサン。「環境を大切にすることは義務のように感じるべきものではない。地球からの贈り物を祝うようなもの」という言葉が印象的だった
Journal
Ethan Estes
RHC Journal
Posted on Jun 09.2026
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